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ブラック・ジャックを読む [生きること]

よく訪ねているブログの中で手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」の中で「脊髄小脳変性症」を取り上げた回があるということが書いてあった。
そのブログの管理人さんの言う「ブラック・ジャック・ザ・カルテ」を図書館で借りてきた。ブラック・ジャックに影響を受けて医師になった方たちの間でのメーリングリストを基にした本のようで、“B・J症例検討会 著”という形で、作品にあらわれた症例のカルテを作成し、わたしならこう治療する、と症例を検討している本である。
それによると、作品では“マリー症”という病名で「水とあくたれ」という作品で登場するという。
現在入手可能なブラック・ジャックの単行本は少年チャンピオンコミックス(秋田書店)、秋田文庫(秋田書店)、手塚治虫漫画全集(講談社)があるが、私の場合は、少年チャンピオンコミックスを借りてきた。私の借りてきた第9巻は昭和51年初版発行・昭和53年発行の15版だった。
あらすじは、こんな感じだ。
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水泳部のエースの中学2年生・有田は病気のためだんだんと泳げなくなっていき、自暴自棄になり性格も荒れすさんでしまう。彼のファンのピノコは、心配であとをつけ回してしまう。そして「とってもいいお医者の先生おしえてあげるわのよ」「ピノコの先生 なんれも治ちてちまァわのよ」と告げる。だが有田は「おれの病気は親からうけついだ遺伝病」で「きれいに治す方法はない」のだと答える。「おれの病名はマリー症ってんだ!!」
有田に怒鳴られたピノコは帰ってブラック・ジャックに相談する。が、ブラック・ジャックの答えは「そいつァ なおらないな 遺伝だからな だんだんひどくなる一方さ あきらめろ 無理だね」というものだった。
それでも有田を心配するピノコを利用して、有田はブラック・ジャックから500万円を脅し取る。「おれはいずれ全身がマヒして頭もくるって死んでしまうんだってよ」「それまでこの金ですきなことをするんだ」
恐喝が有田とピノコの芝居と見抜いたブラック・ジャックは500万円渡すが、目的を果たした有田からピノコは捨てられてしまう。
有田に捨てられたピノコは川面を見つめながら思う。「いつかきっと 泳いれみせゆわ」。ピノコは生まれたときにブラック・ジャックの手術で命をとりとめたため泳ぐことはできない。そんなピノコが川に落ちて溺れてしまう。それを見た有田は、動かない体をかえりみず、川に飛び込む。
岸辺に集まった野次馬たちが、口々にわめく。「(ピノコは)助かったぞ 学生はもうだめだよ」「500万円ももってるぞ」
ピノコを助けた有田にブラック・ジャックは「よく泳いだ!! 見なおしたぞ…」とつぶやく。
しかし、有田は死んでしまった。
ざわめきから少し離れ、ブラック・ジャックは言う。「その金で 葬式を出してやりたまえ……」
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ここまで読んで、複雑な気持ちがした。
手塚先生は、この作品で何を書きたかったのだろう。
治らない病気なら、生きてだんだんひどくなって、全身がマヒして、頭がくるう前に、きれいに死んだ方がハッピーエンドなのだろうか。最初は、そんな感想をもった。
そもそも“マリー症”というのは脊髄小脳変性症のことなのだろうか。
いろいろググってみたが、はっきりしたことはよくわからない。脊髄小脳変性症の研究が進み今では使われなくなった病名と書いてあったサイトもあったが、根拠はわからない。それに中学2年生で発病してあっという間に歩けなくなっている点も、ぼくの知るところとは多少違う。遺伝性でそんなに若く発病して進行もそんなにはやい脊髄小脳変性症のタイプがあるのか。という点も、私の認識とは異なる。もっとも、私は私の例しかよく知らないのだが…。

しばらくしてから、ブラック・ジャックの他の作品も読んでみて、若干評価を変えてみた。
ブラック・ジャックは天才的な外科医であるが、不可能なことはたくさんあるということ(ましてやマリー症は内科の病気だ)。実際ブラック・ジャックが執刀しても(手術は成功しても)、命が救えないことは多い。これは、ブラック・ジャックというひとりの医師の内部での人間ドラマなのだ。さまざまな患者を通して、ブラック・ジャックという人間が、悩み、成長していく話なのだ。ブラック・ジャックの理想の対極としてDr.キリコというキャラクターが配置されているが、これはブラック・ジャックの心の中の負の局面でもある。ブラック・ジャックは、患者を前にして負けそうになる心と常に戦っているのだ。
そしてほとんどの場合、物語はハッピーエンドでは終わらない。
いくら天才的な外科手術を成功させても、ブラック・ジャックには、満たされない気持ちが残る。それが、ブラック・ジャックを次の患者に向かわせる力になっているのだ。
そう考えると、マリー症の有田が命を落としたことは、決してハッピーエンドではなかったのだ。遺伝性の難病“マリー症”になすすべもなかったブラック・ジャックは、有田の亡骸を前に「その金で葬式を…」と言うのが精一杯だったのだろう。(初出:週刊少年チャンピオン、ではブラック・ジャックの科白は違っていたようだ。その点についてはこのサイトに詳しい。
ちなみに、この作品が発表されてから30年以上が経過している。その間医学も大きく進歩しているはずだ。

PS.ところでブラック・ジャックは無免許医である故に、法外な治療費を請求すると思っていたが、(今とは貨幣価値がずいぶん違うのだろうが)せいぜい請求額は500万程度である。バブルを経験したものとしては、法外とも思えないのだが…。


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コメント 4

天邪鬼

たけさん
疑問を感じる点の一部ですが、解る範囲でブログに書き込みました。
なお、参考文献の監修はたけさんの通院先のDrです。
十代で発症された例も数は少ないですが、症例として挙げられています。
by 天邪鬼 (2007-05-07 01:53) 

マリー

はじめまして。同じSCD患者の者です。

ブログにあったマリー病のことですが、パリに留学してた先生から1度その名前を聞いたことがあって、マシャド・ジョセフ病とマリー病は同じSCDで同じ症状だとおっしゃってました。マシャド・ジョセフはポルトガルのある島の住人で、マリーはフランスの女性だということです。

マリー病に疑問を持たれていたようなので書き込みました。
by マリー (2007-05-07 20:48) 

Ende

ブラックジャック マリー症でたどり着いたものです。
マリー症とはフルでシャルコ・マリー・トゥース症といい、
神経性発展性障害です。
by Ende (2010-06-17 17:30) 

たけ

Ende様
ご教授ありがとうございます。m(_ _)m

by たけ (2010-06-17 18:20) 

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